治療計画トライアルについて

トライアル実施の背景

強度変調放射線治療(IMRT)が国内に導入され20年を経過し、この間に多くの施設でIMRTが導入されるに至り、300施設を超える保険医療機関がIMRTを臨床利用し、今日では様々な部位に対して放射線治療の有力な照射技術の1つとなっています。
IMRT導入当初より、その照射条件の複雑性から、いかにして適切に線量計測を行い、計画通りの線量分布が投与されているかを保証するための品質管理・品質保証が行われてきました。

しかし、これまで品質保証してきた線量分布の形状、つまり「治療計画の質」についてはどうでしょうか?

現状では線量分布を質的に比較することは困難であるため、各施設での線量制約に基づく評価、あるいは医師・医学物理士などの治療計画者に依存して、治療計画の質は大きく変化すると予想されます。

実際に海外の報告では、同一のCT画像・輪郭・線量制約を利用して、IMRT治療計画を立案すると、線量分布は計画者の技量に依存して大きなばらつきを有することが複数報告されています。1-6)

治療計画の質による標的やリスク臓器の線量のばらつきは、10%を超える場合もあり、一般的に担保すべきといわれる±5%以内の線量精度と比較して、患者へ与える影響は非常に大きいと考えられます。
つまり、患者にとってより良いIMRTを提供するためには、「どのような質の線量分布を投与するか」について十分に検討することが必要です。

一般に治療計画の質的評価を実施するためには、「どのような線量分布が好ましいか」を定義し、その「理想的な線量分布」との乖離を評価する方法が考えられます。
ただし、実際には、「理想的な線量分布」は、患者背景などによって一意に定めることは難しいため、治療計画者に求められるのは、常に状況に応じて変化しうる「理想的な線量分布」を理解し、「線量分布を自由自在に調整する」技術である、といえます。

この「線量分布を自由自在に調整する」技術を参加者間で共有することで、治療計画作成技術の均てん化および向上に寄与するため、Webシステムを用いたIMRT治療計画トライアルを実施するに至りました。

同一のCT 画像と輪郭に対して、「理想的な線量分布」を模擬した(しかし、簡単には達成が困難な)線量制約を与え、その情報に基づき参加者がIMRT 治療計画を作成するという方法により評価を実施いたします。
参加者が立案した治療計画を、その線量制約により点数化を行うことで、「より高い点数を取得できる計画者」=「線量分布を調整する能力が高い計画者」と判断し、点数により定量的かつ客観的な評価が可能となります。

治療計画トライアルの実施概要

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同一のCT画像と輪郭情報に対して、規定のルール・線量処方・線量制約に基づき、参加者に治療計画を立案頂きます。

Webシステムに作成したプランおよびプラン線量をDICOM形式(RT-Plan/RT-Dose)でアップロードすることで、自動的にスコアが計算されます。
参加者が立案した線量分布は各トライアルで示されている線量制約配点表に従いスコア化します。

参加者は、その他の参加者との統計的なスコア比較や、高得点者の治療計画作成技術を学ぶことで、治療計画作成技術の向上を図ることが可能となります。

治療計画トライアルの目的

同一の線量制約のもと線量分布のばらつきを評価し、成績上位者の治療計画作成技術を共有することで、治療計画作成技術の均てん化および向上に資することを目的としています。

治療計画作成技術の均てん化および向上が目的であるため、提供されるCT画像、輪郭等の良悪に関する議論は本トライアルの対象外となります。
また、本トライアルにおけるCT画像、輪郭、線量制約を参考に臨床治療を実施した場合に生じたあらゆる不利益または損害に対して、ユーロメディテック株式会社および2019-2020JASTRO課題研究班「強度変調放射線治療における線量分布の質的評価基盤の確立」(研究代表者 脇田明尚)は責任を負いません。

結果の公表

個人が特定されない統計的結果を公開予定です。参加者は、自分の結果を統計的に確認することが可能です。
また参加者の同意を得られた場合、成績上位者は公開予定です。

収集したデータの取り扱いについて

利用規約第17条をご参照ください。

JASTRO研究課題

治療計画トライアルは2019-2020年度JASTRO研究課題「強度変調放射線治療における線量分布の質的評価基盤の確立」(研究代表者: ユーロメディテック 脇田明尚)の活動として実施されています。

参考文献

  1. Bohsung J, Gills S, Arrans R, et al. IMRT treatment planning-A comparative inter-system and inter-centre planning exercise of the QUASIMOD group. Radiother Oncol. 2005; 76(3): 354-361.
  2. Nelms BE, Robinson G, Markham J, et al. Variation in external beam treatment plan quality: An inter-institutional study of planners and planning systems. Pract Radiat Oncol. 2012; 2(4): 296-305.
  3. Nelms BE, Feygelman V. A Study of Plan Quality and QA over a Population of Planners, Planning Systems, and Modalities. https://blog.proknowsystems.com/planning/2017-qads-plan-study-results-and-peer-education/ (最終閲覧日2019/3/5)
  4. Srivastava S, Nohadani O, Medawar C, et al. SU‐E‐T‐604: Inter Planner Dosimetric Variations in IMRT. Med Phys. 2012; 39(19): 3845.
  5. Park SH, Park HC, Park SW, et al. Multi-institutional Comparison of Intensity Modulated Radiation Therapy (IMRT) Planning Strategies and Planning Results for Nasopharyngeal Cancer. J Korean Med Sci. 2009; 24: 248-255.
  6. Williams MJ, Bailey MJ, Fostner D, Metcalfe PR. Multicentre quality assurance of intensity modulated radiation therapy plans: A precursor to clinical trials. Australas. Radiol. 2007; 51: 472-479.